エレンオルンのカレー屋開業顛末記&カレー漫画レビュー

漫画とカレー好きが高じてカレー漫画を読んでるうちにまとめたくなりました

第一回 包丁人味平 カレー戦争編

包丁人味平 全23巻 原作 牛次郎 作画ビッグ錠 1973年

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 まずは料理漫画の元祖とも言える存在、包丁人味平のカレー回から。「できらあ!」「え⁉︎  同じ値段でステーキを?」で有名なスーパー食いしん坊コンビによる荒唐無稽料理バトル。

 

 汗で味付けとか糸で食材を切断とか少年漫画らしい無茶苦茶料理バトルを展開することで有名な漫画ですが、味平のカレー編は料理漫画におけるエポックメイキング的作品で、以降の料理対決およびカレー対決に影響を与えています。

 

 何が凄いというと、まず味平は全23巻のうち6巻をカレー勝負に費やしています。ラーメン編が5巻あるので内容の半分はカレーとラーメン。

 ちなみに作中でもカレーとラーメンは大衆料理の代表ということになっており、料亭の息子であり高級レストランで働いてきた味平は大衆料理を極める為にカレー屋を志します。

 

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誰もが美味いと思う料理が大衆料理の理想だが、出身性別年齢職業で味の嗜好が異なるため、万人受けする大衆料理を作るのは困難というのが、これをどう克服するかがカレー勝負のテーマの一つ。

 

 大まかなストーリーとしては、デパートの客引きの為に安くて旨い料理屋を目玉にするという実在のエピソードを踏まえて、高級カレー店インド屋と大衆料理・味平カレーが対決するという流れ。

 

 単なる味比べでなく、その後の再来店、口コミからデパートの集客が変わり、二転三転する展開が初期のグルメ物には珍しい経営まで踏まえたバトルとなっています。

 

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 阪急デパートに美味しいカレー屋を誘致して安く出品してもらいデパートに人を呼んだ小林一三のエピソード。コレ最初、民明書房みたいな捏造エピソードだと思ってました。すみません。

 

 対決になると、味平以降の料理勝負フォーマットがある程度作り上げられていることがわかります。

 

① 敵料理人は何十種類ものスパイスを調合して魅惑的な味と香りを作り出す天才料理人。

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 カレー対決の多くのパターンで採用されるこの形式。美味い理由と天才性の発露としてわかりやすいこと、スパイスの調合のうまさ勝負にしてしまうとエンタメ的に面白くない為主人公側はスパイス以外の手段で旨さを追求することなどから頻出します。

 

②主人公はスパイスの調合はできず、市販のカレー粉を工夫で補う。

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 ①の逆の理由でこうなるわけですが、かなり最近までプロの料理人でもスパイスの調合ではなく市販のカレー粉でカレーを使っていた描写が頻出します。実際カレー専門店でもない限りは市販のカレー粉の使用率も高かったのでしょう。スパイスカレーがブームになったのも15年くらい前ですし。

 

③変な二つ名

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カレー将軍 鼻田香作!

作中で一度も呼ばれてないんだけど誰が呼んでいるのか? なぜ将軍なのか? 味将軍に鍋将軍に中華大帝に味皇、味仙人やたらと出てくる二つ名はまあ、少年漫画のケレン味とわかりやすさの為に有効なのはわかるんですけどカレー名人とか、カレーキングとかでよくない……?

 

④一口食べただけで味をコピー

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 強大な敵が登場時に、「フッ、この程度のレベルで満足してるとはたかが知れてるわね」とばかりに主人公が苦労して作った料理を再現するパターン。もう少し進むと料理勝負中に相手の料理をコピー+αを加えることで相手を上回るコピー料理人に進化する。

 

⑤大手資本が採算度外視で値下げして庶民側の主人公たちを潰そうとする

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 盤外戦術すぎて禁じ手だろそれは!と言いたくなるんですが結構使われます。笹寿司とかもやってなかったっけ? 大概の場合、それ以上に安価な食材を使って美味しいものを作り相手の目論見を砕く。相手料理人が自ら辞めるパターンは珍しい。これも食材が比較的レアな料理になると、食材の買い占めという方向に進化する。

 

⑥カレーは辛いからこそ美味い

⑦カレーだけじゃなく薬味も重要

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この基本路線も後々受け継がれ、ミスター味っ子の料理回の決着などにも同じシチュエーションが出てきます。

また、なんと、味平は薬味に一巻丸々使うほど掘り下げているのですが、薬味に対して必ず言及があるのがカレー料理対決の鉄則といってもいいほどに、味っ子、私立味狩り学園、ズボラ飯などでも言及されています。

 

⑧料理に麻薬

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 味平が語り継がれる最大の理由にして、フォロワーに大きな影響を与えた展開。

 インド屋のカレーを上回り欠点を克服した完全版味平カレーに対して鼻田香作が作った究極のカレー  ”ブラックカレー”、それほど評判は良くないのに一度食べたらもう一度食べずにはいられないこのカレーは香辛料の組み合わせで麻薬に近い成分を作り出していた!

 という展開。勝負自体が鼻田が麻薬中毒で廃人になってしまったことで決着する。

 料理と麻薬というインパクトは大きく50年後の今でも何かにつけて語り継あがれているほか、バトル系料理漫画に受け継がれます。主に中華一番と鉄鍋のジャンですが。

 

実際の勝敗は、なんと決着がつくまで9戦行い、味では負けているがデパートの開店セールのため互角、子供を釣ることで大人も集客して勝利。味では勝ったが期間内に客を呼べなかったので敗北など、経営面を絡めた勝負で二転三転させることで盛り上げている。いや、同じ相手と9回戦うってのが凄いですよ……。

 

以下ダイジェスト版戦績

前哨戦

◯インド屋通常カレー 試作味平カレー

屋台を店の前に展開しガチバトルを挑むも惨敗

 

◯インド屋通常カレー 雑煮カレー

一時的に繁盛するが飽切られたら終わりという理由で味平が敗北を認める

 

デパート対決開始   

◯新作インド屋カレー  試作味平カレー

初日は互角ながら2日目からインド屋に客が流れる。3日で完全に勝負有り。

 

新作インド屋カレー  ◯子供向けミルクカレー

5日目から7日目で客を取り戻さなければ味平カレーはデパートからクビという状態で、大人向け本格カレーのインド屋カレーに対し、子供向けミルクカレーを作り出し3日の猶予を得る

 

◯スパカレー   子供向けミルクカレー

子供の口コミで客を戻した味平に対し、スパゲティとカレーという子供の大好きな料理の合体でミルクカレーから客を取り戻す

 

新作インド屋カレー   ◯醤油入り味平カレー

一晩置いて醤油とカレーを馴染ませた新作味平カレーを作るも、一晩おくという制作が間に合わず、味では勝利するが、客呼び勝負に敗北しデパートをクビに。

 

△新作インド屋カレー  △醤油入り味平カレー

屋台に戻ったことで味割(客のこのみに合わせて辛さを変える)ができず、一種類の味平カレーの辛さが好みでない層がインド屋に流れる。引き分け

 

新作インド屋カレー  ○完全版味平カレー

より辛くして、尚且つ薬味で辛さを抑えることで万人ウケするカレーを作り出す。味平の完勝

 

○ブラックカレー   完全版味平カレー

味では上回るが、ブラックカレーの一度食べれば何度でも食べずにはいられないという中毒性に敗北