エレンオルンのカレー屋開業顛末記&カレー漫画レビュー

漫画とカレー好きが高じてカレー漫画を読んでるうちにまとめたくなりました

第9回 ラーメン才遊記 のカレーというかスパイスの回

ラーメン発見伝 全26巻 1999年〜2009年

らーめん才遊記 全11巻 2009〜2014年 

らーめん再遊記 2020年〜

原作:久部緑郎 作画:河合単 

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 みんな大好きラーメンハゲこと芹沢さんが登場するラーメン漫画。サラリーマンやりながらいつか開業する事を夢見てラーメン屋台を引く藤本が、勤務先の仕事の関係でさまざまなラーメン屋と関わり成長して行く「発見伝」と、藤本と勝負を繰り広げながら藤本を鍛えたライバルにして師匠であるラーメンハゲこと・芹沢が社長のラーメン清流坊に入社した、料理研究家のもとで育てられた舌は鋭敏だがエキセントリックな性格の汐見ゆとりを育てて行く「再遊記」、さらにその続編、数年後にやる気をなくして社長をゆとりに譲った芹沢のその後を描く「才遊記」の、3シリーズがリリースされています。

 

 特徴は、味勝負だけでなく、コスト、安定供給などを考えたメニュー開発、客をスムーズに捌くためのオペレーション、悪徳(意識高い)ラーメン屋のトラブルポイント、プレゼンのやり方、ラーメン屋を取り囲むネット環境、ファン、常連への対応、などラーメン屋でのトラブルをおおよそ想定されるレベルで網羅してくれている点。そして憎まれ役である芹沢のわかりやすい客商売の極論です。現役ラーメン屋が、開業経営の上で非常にな役に立った本としてあげているくらいです。

 

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 ラーメンハゲの言説はスカッとする物言いが多いのである程度バズるのもわかります。美味しんぼ海原雄山、「寿エンパイア」の児島さんと並んである意味主人公より好かれている師匠的ライバルキャラです。

 

 さて、ラーメン常備がメインのラーメン発見伝シリーズのカレー回ですが、ラーメン最遊記でおこなわれていたナデシコカップの決勝のラーメンのお題がスパイスラーメン。これは、スパイスラーメンとなると、カレーをラーメンにかけたものかラーメンに多少スパイスを効かしたもの(激辛ラーメンや坦々麺)がおおく、明確にスパイスの長所を活かしたものがないという提言からのもの。

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 厳密にはカレー対決というか、カレーを含むスパイス対決という趣ですが、4人のファイナリストはハーブを活かしたモヒート風冷やしラーメン、胡椒出汁を効かせたノスタルジックな胡椒風味醤油ラーメン、カレースープラーメンを作ります。

 

チキンカレーを鶏白湯と野菜ベジポタスープと合わせるのはこれ新欧風カレーでは。

 

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主人公・汐見はこれにたいして、スパイスの4つの効果。

矯臭作用─癖の強い食材の匂いを適度に抑制する

加辛作用─辛さを加え味わいにメリハリを産む

賦香作用─清涼だったりエキゾチックだったり香りをつける

着色作用─色彩を与える

 

この全ての作用を活かしたラーメンを作ります。

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 結果は僅差で敗北するんですが、このスパイスラーメン対決、どれもあんまり食べたくならないんですよね……。既存のラーメンにない新しい方向性ということもあってややエキセントリックなラーメンが出てきていることもあるんですが、味の想像がつかないというよりも、想像はつくが美味しそうに感じないというか……。

 一番カレーしてるおっかさんのラーメンが比較的美味そうなんですけど、作中にいままで出てきたラーメンと比べて食べたいかと言われると……。

 

 タレ、スープ、香味油に麺まで研究が重ねられたラーメンの進化にはスパイスという要素が必要ではないか、という大会決勝という舞台に合わせて新しい物を生み出したいという思惑と、既存の材料で創作できつつ、うまそうに見える物を作るという制限がうまく噛み合わなかったかなという所感。このシリーズはリアルで作れるラーメンを題材にしてるのでこの辺りは難しいですね。作中で作れる美味い新機軸ラーメンなら現実で誰かが作ってるわいというジレンマ。

 

 素材を追求する美味しんぼやスーパー調理でなんとかする中華一番なんかはこの辺りを解決できますし、醬なんかはダチョウやサメや虫という普段使わない食材と最新技術の組み合わせでこれを乗り越えています。最近の作品だと寿エンパイアなんかも最新の技術(分子ガストロノミーとか3Dプリンタ寿司+謎技術─落雷、遠雷、万雷)なんかでこの辺りを回避しています。

 

 料理漫画特有のインフレというか、最終的にはうますぎて表現できなくなってしまうのがこのジャンルの難しいところです。