おなかはすいた? 東城三紀夫 1995年
第8回は「おなかはすいた?」。マイナーですが、良作の料理漫画で、津尾さんこれと味狩り学園は定期的に読み返したくなります。
肉の旨みを引き出す隠し味として旨み調味料を使用するというくだりが、「美味しんぼ」を筆頭とする自然素材至上主義を真っ向からぶったぎったことで話題になった事があったので知っている人もいるかもしれません。
実際、イノシン酸(鰹節を筆頭に鶏、豚、牛肉に含まれる)とグルタミン酸(昆布を筆頭ににトマト玉ねぎチーズ、マッシュルームなどに含まれる)またはグアニル酸(干し椎茸などの乾燥したキノコ類)を合わせると味の相乗効果で旨みが飛躍的に増すそうです。
旨み調味料で味を足すのではなく、味の相乗効果で旨みをひきだすために旨味調味料を使用する。というシーン。
物語は、料亭の息子で何もできないが小さい頃からの食生活で舌だけは鋭敏な主人公味彦が、両親に先立たれ資産も土地も失い、仕事もクビになり途方に暮れるところから始まります。
そこに現れた親同士が口約束で決めた中国人婚約者ミイミイの献身的な働きで、中華街に小さなお店を持った味彦は、料理勝負に勝てばより広くより客の来る店舗にステップアップできるが、負ければ最悪閉店という大久保町リトル中華街で料理バトルを繰り広げて行くというお話。
次第に逞しくなる味彦の成長ものでもあり、単に味勝負だけではなく、ランチタイムは安価で作り置きがある程度可能な料理で客のオーダーをコントロールすることや、勝負期間中の客の満足度や(勝負期間内に料理を変更して味は良くなったが、変更前の客を満足させていないことが審査に関わってくる)、料理人としての向き合い方を評価に含むという、店舗経営面のお話もあるあたりラーメン発見伝とまではいかないですが、単なる料理バトルもの以上の読み口を与えてくれます。
また、料理が大衆向け中華料理である事から味の想像がしやすく、初戦のチャーハン対決における「牛肉のスープをたっぷり含ませた食べやすいが旨味は十分な切り干し大根チャーハン」や「ニンニク醤油付けシジミチャーハン」を筆頭に、二戦目のクワイの餃子対切り干し大根餃子、三戦目の鍋対決、ラーメン対決、焼鳥対肉寿司、ハンバーガー対中華まんなど身近な料理で美味そうと思わせるのが上手かったです。
カレー回は、成長した味彦が、全国の名店が戦う大会の決勝戦で、実は生きていた父親と大衆料理の代表であるカレーで対決する物語のラストバトル。今まで支えてくれたミイミイは味彦を支援する郭大人とは敵対する陳グループの娘のため、敵側に回ります。
審査でありながら有料で料理を提供するというお題に対して、比較的リーズナブルな値段でクオリティの高いカレー丼(800円)を提供する味彦に対し、父親は5000円のカレーで観客の興味を惹きつけ、フグを使い切ったカレーで値段相当の満足感を与え優勢に立ちます。
「どうやら値段をつける意味を少しも考えなかったようだな! 客はより興味を引く方を先に食べる。そして有料であれば完食する。俺のカレーを完食した後にカレー2杯目は重すぎる。お前の料理なんか誰も食わねーよ。ザマーミロー。ハハハハハハ」
ここから主人公はどうやって逆転するんですか!?
失礼、途中から某中華料理人になってしまいましたが、大意としてはそんな展開で大ピンチに。
味彦は、逆転の手として子牛脳みそのカレーを作り大会の勝負には負けるものの父親との味勝負には勝利して、ミイミイを取り戻して2人で郭グループとも陳グループとも関係ない大衆料理店を始めるのでした。
物語としては、成長、父親変え、自分の道を見つけて踏み出し、恋人と結ばれるというすっきりした簡潔で、電書になっていないのは残念ですが、全7巻ということもあってお勧めしやすい料理マンガです。
まあ、鍋勝負でモミジ(鶏の足はビジュアル的にウケが悪いから隠したくだりがあるのに食材として脳みそは一般ウケするのかなあとか、フグカレー完食した人、結局2杯目のカレーキツく無い? とか気になる点はあるんですけどほとんど気にならないレベルでまとまっています。
ちなみにカレーの調理に関してはメイン食材のインパクトとそれとのバランスとりに終始しているため、カレー食べたいとはあまりならないのは残念なところでした。