エレンオルンのカレー屋開業顛末記&カレー漫画レビュー

漫画とカレー好きが高じてカレー漫画を読んでるうちにまとめたくなりました

カレー屋開業計画顛末記①

 カレー漫画の話をしていた中で突然だがカレー屋を開業したいと思う。いや、正確にはカレー屋開業を朧げに考え始めたので、カレー関連の本レシピ、ブログ、食べ歩き記録、カレー屋開業記、カレー漫画を読むようになり、折角だからブログにしようと書いていた、というのが正しい。

 

 仕事をしているので老後の副業として、などと考えていたのだが、現状できなくはないという見込みなのでどう転ぶかわからないが顛末を記していこうと思う。したがって今後、このブログは開業準備が進んでいくとその顛末が、進んでいないときはカレー漫画の話をすることになります。ご了解ください。

 

 さて、まず仕事で食品衛生管理の資格を持っているので、老後に飲食をやれるのではという話が出たのがきっかけだった。老後にカフェをやろうという同業者の話も聞く。まあ、こうしてどう見ても採算が取れない素人カフェが誕生しては潰れてるのだろう。中高年の趣味、蕎麦打ちや漬物作りの豪華版だ。

 一見趣味と実益を兼ねるお得な趣味に見えるのだが、ろくに下調べをせずに立ち上げるので赤字経営のまま数年後に貯金を食い潰して廃業する。よく聞く話ではある。知り合いにもこういう顛末のお店をやった人がいる。しかし、自分の店を開くというのは言わば趣味の到達点なので憧れる気持ちはわかる。

 客の来ない喫茶店で、学生バイトに「こんなにお客さん来ないと潰れちゃいますよ!」とか言われながらこだわりのコーヒーをいれる個人店カフェ。まあ浪漫だ。ちょっとやってみたい。

 だが、僕はコーヒーも紅茶も特に興味がない。しかし、せっかく資格があるのだから活かしてみたいというのも人情だ。死ぬほど働いたセカンドライフに半ば趣味の飲食店でぼちぼち働くくらいは夢見てもいいんじゃないだろうか。

 カフェがダメなら飲食店はどうだろう。幸いにというか料理は趣味で作っているし、男の料理好きが一度は通るスパイスカレーの道も通ってきた。子供が産まれてスパイスよりも甘いカレーを好むようになったのでしばらく遠ざかっていたがレシピノートも残っている。カレー屋というのはどうだろう?

 初めはそんな思いつきだった。


 少し真面目に考えてみる。

 こんな事を考えるくらいなので僕自身カレーは好きだし、作るし、食べにも行く。都内に住んでいたときはカレー食べ歩きブログなんかで美味しい店舗を探しに行ったりもしていた。西多摩に引っ越してからはそもそも近所にカレー屋がない事を嘆いていたくらいだ。

 うちの近くには7店舗しかカレー屋がなくて、そのうち4店舗は現地の人がやっているインドネパール系、1店舗はCoCo壱、残り2店舗が創作カレーだ。都内の100名店とかだと違うのかもしれないが、地方のインドネパール系はそもそもチェーンかと思うくらい似た系統のメニューで、そこまで違いがわからない。ごくたまにならいいが、あまり進んで食べに行きたいとは思わない。CoCo壱は美味いがそろそろ中年には重いし、頻繁に食べたいほどではない。そこで創作系スパイスカレーやカフェのカレーを探すことになる。自分の好みから考えても、やるとしたら欧風カレーか創作スパイスカレーだ。

 どちらにしてもカレー屋は大体の店舗で、メニュー数はそんなに多くなく4-5種類、トッピングが数種で、後はドリンク。飲み物はセルフサービスで、食器もワンプレートの場合もある。調理の手間、食材の在庫管理、食品ロス、皿洗いなんかを考えても比較的運営しやすそうに見える。自分のようなカレー好きは一定数いるわけで、ラーメンマニアには負けるが需要は比較的安定してありそうだ。勿論飲食店は厳しいので売りがなければダメだとは思う。しかし、考える余地はありほうだ。


 実際調べてみても、メニュー数の少なさ、作り置きが可能な点、回転率の高さあたりから参入障壁は低い飲食店の一つらしい。ラーメン、うどん、カレーが代表だそうだ。まあ、普通に考えて地中海料理とかよりはニーズがあり、町中華なんかと比べたら作る品目は少ない。その代わりライバルは多いわけだが。


 カレー屋、いいかもしれない。

 これがきっかけだった。

 

 

 

 

 

 

第9回 ラーメン才遊記 のカレーというかスパイスの回

ラーメン発見伝 全26巻 1999年〜2009年

らーめん才遊記 全11巻 2009〜2014年 

らーめん再遊記 2020年〜

原作:久部緑郎 作画:河合単 

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 みんな大好きラーメンハゲこと芹沢さんが登場するラーメン漫画。サラリーマンやりながらいつか開業する事を夢見てラーメン屋台を引く藤本が、勤務先の仕事の関係でさまざまなラーメン屋と関わり成長して行く「発見伝」と、藤本と勝負を繰り広げながら藤本を鍛えたライバルにして師匠であるラーメンハゲこと・芹沢が社長のラーメン清流坊に入社した、料理研究家のもとで育てられた舌は鋭敏だがエキセントリックな性格の汐見ゆとりを育てて行く「再遊記」、さらにその続編、数年後にやる気をなくして社長をゆとりに譲った芹沢のその後を描く「才遊記」の、3シリーズがリリースされています。

 

 特徴は、味勝負だけでなく、コスト、安定供給などを考えたメニュー開発、客をスムーズに捌くためのオペレーション、悪徳(意識高い)ラーメン屋のトラブルポイント、プレゼンのやり方、ラーメン屋を取り囲むネット環境、ファン、常連への対応、などラーメン屋でのトラブルをおおよそ想定されるレベルで網羅してくれている点。そして憎まれ役である芹沢のわかりやすい客商売の極論です。現役ラーメン屋が、開業経営の上で非常にな役に立った本としてあげているくらいです。

 

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 ラーメンハゲの言説はスカッとする物言いが多いのである程度バズるのもわかります。美味しんぼ海原雄山、「寿エンパイア」の児島さんと並んである意味主人公より好かれている師匠的ライバルキャラです。

 

 さて、ラーメン常備がメインのラーメン発見伝シリーズのカレー回ですが、ラーメン最遊記でおこなわれていたナデシコカップの決勝のラーメンのお題がスパイスラーメン。これは、スパイスラーメンとなると、カレーをラーメンにかけたものかラーメンに多少スパイスを効かしたもの(激辛ラーメンや坦々麺)がおおく、明確にスパイスの長所を活かしたものがないという提言からのもの。

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 厳密にはカレー対決というか、カレーを含むスパイス対決という趣ですが、4人のファイナリストはハーブを活かしたモヒート風冷やしラーメン、胡椒出汁を効かせたノスタルジックな胡椒風味醤油ラーメン、カレースープラーメンを作ります。

 

チキンカレーを鶏白湯と野菜ベジポタスープと合わせるのはこれ新欧風カレーでは。

 

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主人公・汐見はこれにたいして、スパイスの4つの効果。

矯臭作用─癖の強い食材の匂いを適度に抑制する

加辛作用─辛さを加え味わいにメリハリを産む

賦香作用─清涼だったりエキゾチックだったり香りをつける

着色作用─色彩を与える

 

この全ての作用を活かしたラーメンを作ります。

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 結果は僅差で敗北するんですが、このスパイスラーメン対決、どれもあんまり食べたくならないんですよね……。既存のラーメンにない新しい方向性ということもあってややエキセントリックなラーメンが出てきていることもあるんですが、味の想像がつかないというよりも、想像はつくが美味しそうに感じないというか……。

 一番カレーしてるおっかさんのラーメンが比較的美味そうなんですけど、作中にいままで出てきたラーメンと比べて食べたいかと言われると……。

 

 タレ、スープ、香味油に麺まで研究が重ねられたラーメンの進化にはスパイスという要素が必要ではないか、という大会決勝という舞台に合わせて新しい物を生み出したいという思惑と、既存の材料で創作できつつ、うまそうに見える物を作るという制限がうまく噛み合わなかったかなという所感。このシリーズはリアルで作れるラーメンを題材にしてるのでこの辺りは難しいですね。作中で作れる美味い新機軸ラーメンなら現実で誰かが作ってるわいというジレンマ。

 

 素材を追求する美味しんぼやスーパー調理でなんとかする中華一番なんかはこの辺りを解決できますし、醬なんかはダチョウやサメや虫という普段使わない食材と最新技術の組み合わせでこれを乗り越えています。最近の作品だと寿エンパイアなんかも最新の技術(分子ガストロノミーとか3Dプリンタ寿司+謎技術─落雷、遠雷、万雷)なんかでこの辺りを回避しています。

 

 料理漫画特有のインフレというか、最終的にはうますぎて表現できなくなってしまうのがこのジャンルの難しいところです。

 

第8回 おなかはすいた? 日本料理対中華料理のカレー対決

おなかはすいた? 東城三紀夫 1995年

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 第8回は「おなかはすいた?」。マイナーですが、良作の料理漫画で、津尾さんこれと味狩り学園は定期的に読み返したくなります。

 

 肉の旨みを引き出す隠し味として旨み調味料を使用するというくだりが、「美味しんぼ」を筆頭とする自然素材至上主義を真っ向からぶったぎったことで話題になった事があったので知っている人もいるかもしれません。

 実際、イノシン酸(鰹節を筆頭に鶏、豚、牛肉に含まれる)とグルタミン酸(昆布を筆頭ににトマト玉ねぎチーズ、マッシュルームなどに含まれる)またはグアニル酸(干し椎茸などの乾燥したキノコ類)を合わせると味の相乗効果で旨みが飛躍的に増すそうです。

 

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 旨み調味料で味を足すのではなく、味の相乗効果で旨みをひきだすために旨味調味料を使用する。というシーン。

 

 物語は、料亭の息子で何もできないが小さい頃からの食生活で舌だけは鋭敏な主人公味彦が、両親に先立たれ資産も土地も失い、仕事もクビになり途方に暮れるところから始まります。

 

 そこに現れた親同士が口約束で決めた中国人婚約者ミイミイの献身的な働きで、中華街に小さなお店を持った味彦は、料理勝負に勝てばより広くより客の来る店舗にステップアップできるが、負ければ最悪閉店という大久保町リトル中華街で料理バトルを繰り広げて行くというお話。

 

 次第に逞しくなる味彦の成長ものでもあり、単に味勝負だけではなく、ランチタイムは安価で作り置きがある程度可能な料理で客のオーダーをコントロールすることや、勝負期間中の客の満足度や(勝負期間内に料理を変更して味は良くなったが、変更前の客を満足させていないことが審査に関わってくる)、料理人としての向き合い方を評価に含むという、店舗経営面のお話もあるあたりラーメン発見伝とまではいかないですが、単なる料理バトルもの以上の読み口を与えてくれます。

 

 また、料理が大衆向け中華料理である事から味の想像がしやすく、初戦のチャーハン対決における「牛肉のスープをたっぷり含ませた食べやすいが旨味は十分な切り干し大根チャーハン」や「ニンニク醤油付けシジミチャーハン」を筆頭に、二戦目のクワイの餃子対切り干し大根餃子、三戦目の鍋対決、ラーメン対決、焼鳥対肉寿司、ハンバーガー対中華まんなど身近な料理で美味そうと思わせるのが上手かったです。

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 カレー回は、成長した味彦が、全国の名店が戦う大会の決勝戦で、実は生きていた父親と大衆料理の代表であるカレーで対決する物語のラストバトル。今まで支えてくれたミイミイは味彦を支援する郭大人とは敵対する陳グループの娘のため、敵側に回ります。

 

 審査でありながら有料で料理を提供するというお題に対して、比較的リーズナブルな値段でクオリティの高いカレー丼(800円)を提供する味彦に対し、父親は5000円のカレーで観客の興味を惹きつけ、フグを使い切ったカレーで値段相当の満足感を与え優勢に立ちます。

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「どうやら値段をつける意味を少しも考えなかったようだな! 客はより興味を引く方を先に食べる。そして有料であれば完食する。俺のカレーを完食した後にカレー2杯目は重すぎる。お前の料理なんか誰も食わねーよ。ザマーミロー。ハハハハハハ」

ここから主人公はどうやって逆転するんですか!? 

 

 失礼、途中から某中華料理人になってしまいましたが、大意としてはそんな展開で大ピンチに。

 

 味彦は、逆転の手として子牛脳みそのカレーを作り大会の勝負には負けるものの父親との味勝負には勝利して、ミイミイを取り戻して2人で郭グループとも陳グループとも関係ない大衆料理店を始めるのでした。

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 物語としては、成長、父親変え、自分の道を見つけて踏み出し、恋人と結ばれるというすっきりした簡潔で、電書になっていないのは残念ですが、全7巻ということもあってお勧めしやすい料理マンガです。

 

 まあ、鍋勝負でモミジ(鶏の足はビジュアル的にウケが悪いから隠したくだりがあるのに食材として脳みそは一般ウケするのかなあとか、フグカレー完食した人、結局2杯目のカレーキツく無い? とか気になる点はあるんですけどほとんど気にならないレベルでまとまっています。

 

 ちなみにカレーの調理に関してはメイン食材のインパクトとそれとのバランスとりに終始しているため、カレー食べたいとはあまりならないのは残念なところでした。

 

 

第7回 中華一番 にもカレーはある

 中華一番シリーズ 小川悦司 1995年

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 今回はスーパー系料理漫画の最右翼の一つ、中華一番。

 1995年の中華一番から1997年の真・中華一番、連載され2017年の中華一番・極が現在まで続く長寿コンテンツ。アニメ化もされ、大陸では日本以上に人気があるコンテンツらしく、ドラマ化もされています。

 

 舞台を19世紀の中国にすることで、現代では一般的な手法も革新的な技術ということにできるという、料理勝負の見せ方として説得力のある手法を使っています。信長のシェフなんかに近い感じ。初期はそれで勝負しながら成長していく中華料理漫画だったんですが、話が進んでいくにつれて、料理で人を支配する「裏料理会」やさまざまな外道テクニック、瞬時にして発酵や熟成がおこなえたり、永遠の鮮度を保つことができるが、ふさわしくないものが使えば最悪2度と料理ができない体にされてしまう「伝説の厨具」など、面白要素が登場してきます。

 

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料理漫画とは思えない絵面

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資格なきものが伝説の厨具を使うとこうなります。北斗の拳か?

 

 まあ、食材と調味料は現実のものなので「トリコ」なんかよりはリアルよりに感じますが、調理法はスーパー食いしん坊より無理があるものも多いです。

 

裏料理会五虎星の一人、豹子頭アルカンの技

「天雄火炎車輪」。長江が沸騰する。

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 特筆すべきは、料理漫画における三大禁じ手①「料理に麻薬を使う」②「コピー料理人」③「先行で味の濃い料理を出すことで審査員の味覚を狂わせ料理対決に勝利」を全て網羅した漫画という事です。食戟のソーマラーメン発見伝は②③はクリアしているんですが①をクリアする事は通常の料理漫画では困難です。鉄鍋のジャンが①③をクリアしてるんですが、②が居ない、惜しい! まあ、黄蘭青が似たようなことやってましたけど。

 

料理に麻薬の元祖 味平

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料理に麻薬といえば、鉄鍋のジャン
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ここから主人公はどうやって逆転するんですか⁉︎

と言わしめた、先手味覚封じ

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食戟のソーマのコピー
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カス先輩の味覚封じ

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意外ににこういうことやるラーメン発見伝

コピー料理人天宮

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辛ラーメンで次の審査のラーメンの味を感じさせなくする味覚封じ
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中華一番の一連のシーン

料理に麻薬。ダイレクトにけし

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コピー料理人
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ちゃんと技名までついている舌覚疲労

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 大体料理に麻薬は禁じ手すぎるので、「包丁人味平」と「鉄鍋のジャン」以外ではほとんど見た事ないんですけど「中華一番」では複数回登場します。治安悪すぎるだろ……。

 

 そんな中華一番のカレー料理シーンがこちら、19世紀中国という事でカレー自体が一般的でない世界なんですが、劉昴星は自力で中華料理からカレーにたどり着きます。

 

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意外と普通……。

 玉ねぎ、ニンニク、生姜を炒め、ターメリックで色をつけて、カイエンペッパー、ブラックペッパーで辛さを、ローリエコリアンダー、シナモン、クローブ、カルダモン、フェンネルで羊肉の臭み消し、リンゴとはちみつでコクとマイルドさを加えたカレーです。

 

 珍しさと、中華からカレーにたどり着いた発想で勝利しますが、めっちゃ食いたいとはならないんですよね。普通の現代のカレーといったところ。まあ、予選の勝負なのでそれなりの勝利でまとめたという感じです。

 

 中華一番、毒膳料理から活人料理まで幅広いので、勝負どころの料理は人外の料理になりますからね……。

 

 


 

第6回 極道めし 舞妓さんのまかないさん 孤独のグルメのカレー回

第6回は、登場はするものの扱いの小さい漫画をまとめて紹介。

 

極道めし 土山しげる 2006年

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 極道めしは、ドラマ化もされた「刑務所の中で互いにうまいものの話をして相手の喉を鳴らしたら勝ち」という一風変わった料理漫画。未知の味ではなく既知の味に対する共感という、読者と作中の聴衆がリンクする上手い作り。このコンセプト考えた土山先生はマジで天才だと思います。

 

 共感を得る為B級グルメの出番が多くなることと、郷愁、家庭の味がキーになることが多い為、出てくる料理もオムライス、ラーメン、カツ丼、焼きそば、お好み焼き、おにぎりやおはぎなどから、卵かけご飯に漬物飯、インスタントラーメンなど日常メシや通常のグルメ漫画にはまず出てこない品目が登場します。

 

 で、家庭の味といえばカレーだろって思うんですが、極道めしには、カレー回が存在せず(ラーメンは4、5回ある)、カレーラーメン回だけが存在します。

でも、カレーラーメンってあんまり食べないし共感あんまりできないんですよね。なんでじゃがいもが煮崩れた2日目の家庭のカレー回やらなかったのかなあ……。

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カレーラーメン回。2ページしかない

 

舞妓さんちのまかないさん 小山愛子 2017年

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 現在四大少年誌唯一のグルメ漫画。2019年小学館漫画賞受賞。アニメ化、ドラマ化もされた。

 料理勝負やお悩み解決を行わず、レシピを出すわけでもなく、舞妓さんの生活と主人公達3人の青春と友情を、癒しやストレス解消、元気の源としての料理を絡めて描きます。レシピのないクッキングパパというか、悪役がおらず、諍いもさしてなく、こういう雰囲気いいよねって差し出される互いのことをわかり合った少年少女。これが令和の料理漫画。

 

 作品のスタンスから一食が大きく取り上げられること自体がないんですが、舞妓さんはホームシックになるという理由でまかないでのカレーが禁止らしく、ほとんど出てこないです。

 出てきたのは多分2回、賄いのキヨちゃんが休みの日に普段食べられないカレーを作って食べる日。休暇で故郷に帰ったキヨちゃんとスミレがカレー南蛮を食べる回。

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どちらも楽しみにしているのが伝わります。

普通に素朴なカレー。

 

孤独のグルメ 原作久住昌之 作画谷口ジロー1997年

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 ドラマがシーズン10まで放映され、テレビスペシャルが年末の風物詩になっている超人気ドラマの原作。その頃のグルメブームに辟易していた原作者の久住が「孤独にグルメを楽しんでいる漫画」という方向性で描いた。

 

 基本的に主人公の井之頭五郎が腹を減らして、どこにでもあるような店で食事をするというだけの話。

 

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うん、これこれ。って普通の定番のカレー丼を食べる。そんな作品なので蘊蓄もリアクションもないです。

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神宮球場で野球の応援しながらカレー食べた感想がコレ。気持ちはわかる。

 

第5回 私立味狩り学園 カレー回は4人全員美味そうなカレーを作る

私立味狩り学園 作画谷上敏夫 原作あかねこが1987年

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 第5回は知る人ぞ知るチャンピオン料理漫画の名作私立味狩り学園。知識はないが野生的なひらめきと料理の腕を持つ主人公天堂竜馬が、様々な相手と料理勝負を繰り広げる少年漫画らしいバトル系料理漫画なんですが、いくつか特筆すべき点があります。

 

 命懸けで料理をすることあたりは80年代料理漫画ではなくはないですが、料理漫画には珍しく、初めに出てくる長髪美形の天才エリート料理人鬼崎法人が最後まで宿命のライバルとして何度も戦うこと。

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 料理対決のお題が、卵と4つの素材で全ての栄養素が入った完全栄養食を作る事や、

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五味(甘味・辛味・塩味・酸味・苦味)、五法(煮物・焼き物・蒸し物・揚げ物・生物)、五色(黄色・赤色・青色・黒色・白色)を全て使った料理を作る事、同じ麺とつゆを使って他の料理人より美味しい素麺料理を作る事、あらゆる料理を食べたことがある審査員の食べたことのない料理を作る事、などバラエティー豊かであること。

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 その誰も食べたことのない料理の回答が、一応納得できるもので尚且つぶっ飛んでいること。

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 誰も食べたことのない料理、子供心に無茶と思いつつ説得力はありました。

 

 序盤はちと辛いですが、最初のコンテスト以降は面白いのでぜひ読んでいただきたい作品です。

 

 味狩り学園のカレー回は、日本料理界の首領、鍋将軍が古の料理人「包丁」が岩に突き刺した包丁の持ち主に相応しい料理人(岩を切れるほどの技量を持つ現代最高の料理人を決める大会「包丁の包丁」争奪戦の残り4人となってからの競技。

 それまでも、生きた魚のフライを作れ、はるか空中にぶら下がった肉の中から上等な肉を手に入れろ、プラスチックでできた米何百俵の中に一俵だけ忍ばせてある本物の米を手に入れろ、そのプラスチックを燃やした業火の山を火力として炊き込みご飯を作れ、など「それ本当に料理の腕関係ある?」という課題が続きますが、カレー回は、天秤で空中に釣られた釣り籠の中で料理を行い、蒸発する水や補給する米や材料が天秤のバランスを崩すと落下して即死亡という状態での調理。

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 20キロ丁度のカレーを作らなければならず、材料の管理、適切な量作ることも料理人の脂質ということなのですが……。どう考えてもやりすぎです。参加者は何を考えてこの大会に出場しているんだ……。

 カラスが乗るとバランスが崩れるので粉塵爆発でカラスを追い払った結果、カゴが落ちそうになったりするんですがこれで死んだら全く無駄死にです。

 

 シチュエーションはともかくとして作るカレーはうまそうで、主人公竜馬はじっくり玉ねぎを炒め、すりおろしたにんじんとジャガイモパパイヤ、バナナを混ぜ込んだ深みのある味わいのルーに、旨みの凝縮した筋肉の発達した闘牛のスネ肉と肩肉をメイン具材に。ライスはターメリックサフランを炊き込み、薬味は薄切りにした大根にわさびを混ぜ込んだもの、ルーにはフランスパンをすりおろしてとろみをつけるという街の定食屋出自らしい欧風カレー。この頃から、メイン具材のみならず、ライス、薬味まで気を回しているのは素晴らしい。

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 ライバル鬼崎はカレー勝負の天才ライバルの王道スパイスを使いこなし、海水を含んだ牧草を食べて育った、薄く塩味の滲み出る最高の子羊アニョー・ド・プレサレを使ったカレー。ライスは牛乳で炊き上げ、薬味はあんずのドライフルーツの甘酢漬け。

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 中国人料理人大全は鶏ガラと生姜ニンジン茴香などのスパイスでスープをとり、干し鮑、干しエビを戻して味に深みをつけたもので、ライスはカレーを引き立たせる甘みをつけるために干しぶどうを炊き込み、薬味はらっきょうとパセリのみじん切りの和物。

 

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 黒マントはイカのはらわた、ウニ、タラコを潰したペーストにスパイスを入れカレーソースを作り、辛い味とよく合うカリカリとした歯触りが絶品の子牛の腎臓ロニョンがメイン具材。米はバターで炒めて外米の味のクセをとり、薬味はイカのみじん切りを湯通しして裏漉しした梅と和えたもの。

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 4人とも特徴を出しつつ美味そうに表現しており、カレー回の中でも屈指の食べたいカレーに仕上がっています。

 なんとなく美味そうの表現が上手い漫画でした。

第4回 スーパー食いしん坊のスーパーカレー

スーパー食いしん坊 原作 牛次郎 漫画 ビッグ錠 1982年

 

 第4回は味平コンビによるスーパー食いしん坊。もはや作品を読んだことがある人よりネットミームとして知っている人の方が確実に多い漫画です。

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襲いくるネットミーム

 

 

 タイトル通りスーパー系料理漫画で、「孤独のグルメ」、「舞妓さんのまかないさん」が雰囲気系リアル料理漫画、「きのう何食べた」「クッキングパパ」がレシピ系リアル料理漫画とすると、バトル系スーパー料理漫画がギリギリ料理を作ることが可能な「ミスター味っ子」「私立味狩り学園」、料理自体の作成が困難な「鉄鍋のジャン」、「中華一番」あたり。

 その中でも調理方法自体が常軌を逸しているスーパー系の最右翼が「スーパー食いしん坊」と「グルマンくん」です。

 

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スーパー食いしん坊名物

衛生観念のない調理法

ハープでイカを切断

 

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同じく車のホイールで調理

え? 調理師免許?

 

 また、料理人が腕自慢、料理自慢をする→主人公が煽る→「じゃあ手前は作れるんだな!」→「できらぁ!」がパターンとなっており、展開の速さも特徴です。

 

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物凄いスピード感

 

 スーパー食いしん坊は全9巻のうち3回カレー回があるのですが、一つは変わり種の具を使った珍味餃子対決回。

凍らせたカレーを餃子の皮で包みます。

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結構普通! いや、これ絶対皮破れて中身溶け出さない?

 

もう一つは海で作るタワーリングカレー回

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 円柱の入れ物に米をいれ、中央にくり抜いた竹を埋めてそこにカレーを注ぎ、竹を引き抜けば完成! 人数分上から切ってバナナの皮に乗せて、渡せば配膳も簡単でオシャレ!

 

 ………

 無理があるだろ! 

 米にカレーが染み込むだろ!

 包丁でタワーん切ったら下からカレーがこぼれるだろ!

などと瞬時に沸く疑問はものともせずスーパー食いしん坊は傲慢なホテルのレストランをやり込めます。

 

 お気づきの通り、ここまでカレーの調理自体には一切触れません。カレーはもうスタート段階で完成しているのだ……。

 

 最後にスパイスカレーの名店デリーとの対決回。

ここは王道のスパイスを使いこなす名店に対し、スパイスを使いこなせないスーパー食いしん坊はクミンとターメリックと赤唐辛子と塩という最小限のスパイスと、野菜から出る水分で作る無水カレーにパイナップルの甘味で辛さを引き立て、酵素で肉を柔らかくするという手法で戦います。

あれ、これミスター味っ子とほぼ同じ流れな気がする……。

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味平、初期クッキングパパに続き、市販のカレー粉を具材の工夫やスープの工夫で補うカレー作りが続きます。

まあ、スーパー食いしん坊は美味い料理を作るより、不可能に見える調理をどう行うか(短時間で作る、大人数分作るなど)がポイントだったりしますので、美味そう感は薄いです。